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はむらぼの音楽講座 音楽ブックレビュー

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「はむらぼ」の音楽ブックレビュー

世の中にあまた音楽関連のサイトはあるんですけど、あまり音楽関連書籍を紹介したサイトが少ないことに気づいてしまいました。ということで、このコーナーは、新旧織り交ぜて、「はむらぼ」が関心を持った音楽書をご紹介するコーナーです。たまにはみんなでお勉強しましょ!(喜)

金子建志著 「200CD オーケストラの秘密〜大作曲家・名作の秘密」

 ※立風書房、1999年初版、248ページ

 ※分野:CD解説、管弦楽法

 いやはや、マニアックな本です(喜)。立風書房200音楽書シリーズの第19巻目になるのかな? 今回は、いわゆるオーケストラ曲(交響曲や交響詩、序曲、組曲、管弦楽曲など)を対象に、オーケストレーションの妙味を解説した本です。オーケストレーションって、なかなか一般には理解されにくい分野かもしれませんけど、簡単に言ってしまえば、例えば「旋律をヴァイオリンで弾くのかフルートで弾くのか」ということですね(単純化し過ぎかな。。。笑) 喩えるならば、五線紙というキャンパスをどのように塗り分けるのかということですね。そこには重ね塗りもあれば、タッチの強弱もあります。水彩絵の具の中のクレヨンなどのように異質なものの組み合わせなどもありますね。個人的には、このオーケストレーションの上手い下手で、良い演奏となる確率がかなり変わるという実感があります。とくにワタクシのようなマンドリン演奏者には、マンドリンオーケストラのオーケストレーションってとっても大事な分野だと思います。

 さて、この本では、ハイドンやベートーヴェン、ラヴェル、ストラヴィンスキーなどの作曲家のオーケストレーションの妙味を事細かに解説しており、代表的なCDを取り上げてその個所を具体的に教えてくれます。残念なことに楽譜は掲載されていないんですが、これはどうやら五線紙が書かれていると本としての売上が3割も減るからだとか。。。(^^; ほんとに書かれていることを理解しようと思ったら、やっぱりスコアやたくさんの種類のCDを持っていなくてはいけないんですけど、少なくとも器楽演奏者ならば好きな曲くらい、これくらいのことは勉強してもいいんぢゃないかな。

 ま、極めてマニアックなことばかり書かれていて、ワタクシとしても半分も理解できていないんですけど(笑)、この本のもう一つの特徴である、いくつかの楽器の奏法や苦労話が具体的に解説されている点が大吉です。例えば、ハープやティンパニなど、普段ではあまり表舞台に出ない楽器の詳細がわかって、とっても勉強になりました。作曲家のオーケストレーションだけでなく、現場での慣習的な対処法なども解説されており、ふむふむとニヤっとする場面も多かったです。このシリーズ、読み物としても面白いんですけど、あまりかしこまらずに、好きなところを好きなだけ読むという辞書的な読み方でも十分楽しめると思います。アマチュアなどで指揮者をしている方はもちろん、音楽を勉強する人にとっては、熟読して欲しい本ですね。ワタクシも、少しずつスコアを見ながら研究してみますです。(99/8/4)


●雁部一浩著 「ピアノの知識と演奏−音楽的な表現のために−」

 ※ムジカノーヴァ叢書、1999年初版、86ページ

 ※分野:演奏法、音楽論

 この本は、10年ほど前に「ムジカノーヴァ」という雑誌に「より良い演奏の為のピアノ知識」という連載をまとめたものです。もっとも後半部分は今回のために書き下ろしたようです。で、この手の本は、どうしても筆者の思い入れや、いわゆる「流派」みたいなものが出てしまって、読んでいてもあまりピンとこないケースが多いんですけど、この本は面白いですね、基本スタンスが、「何が正しいか」示すよりも「何が間違っているか」を明確に科学的に示していまして、説得力のある文章になっています。

 全10章のうち、前半の7章がピアノ演奏のための具体的な技術論、後半3章がピアノに限らず、一般的な「演奏論」になっています。で、ワタクシとしてはピアノはほとんど弾けないに等しい状態ですから、どこまで的確な指摘となっているかはなかなか判断しづらいんですけど、それでも例えば「ペダルを踏み続けながら指を押さえ続けるナンセンス」や「タッチで音色が変わるか」、「鍵盤上で指を震わせるビブラート」などの項目は一聴に値するし、ピアノという楽器の構造論から「何が間違っているか」ということを示すアプローチはすべての楽器に応用できると思いました。例えば、マンドリンでいうと、トレモロをしながら左手でビブラートをかけられるか?とか、ピックを磨く是非、トレモロの回転数を決めるべきか否か、といったところでしょうか?(これらは、みなさんが考えてくださいね。。。笑)

 後半の「演奏論」も大変興味深いコメントでいっぱいですが、例えば「楽曲の習得に際して、技術的な練習を重ねて後に曲想を考えるなどというのは全く賛成しかねる手順です(78ページ)」などのコメントは、ワタクシとしても大変共感を覚えるところです。わずか100ページに満たない本ですので、それこそものの1時間程度ですべて読み切ってしまう分量ですが、それだけに凝縮されていて、「何が間違っているのか」ということを明確に教えてくれる良書だと思いました。なお、初版で1400円、ISBN4−943945−86−4です。東京ではヤマハや山野楽器などで簡単に入手出来ると思いますよ。(99/7/18)


●芥川也寸志著 「音楽の基礎」

 ※岩波新書、1971年初版、198ページ

 ※分野:音楽論、楽典

 ワタクシの思い出の本です(喜)。高校時代、はじめてマンドリンクラブに入ってクラシック音楽の世界を知ったときに、先輩から「必修本」として紹介されました。この本の特徴は、極めて正統的な音楽論、楽典が書かれているにも関わらず、新書版という点、豊富な譜例、そしてなによりも筆者の音楽に対する熱意が伝わることなんですよね(大喜)。なんといっても冒頭から頭が下がります。

「休止はある場合、最強音にもまさる強烈な効果を発揮する。。。(中略)。。。音楽はまず、このような静寂を美しいと認めることから出発するといえよう。(2ページ)」

 そして、本の最後には、

「『音楽』という名の音楽、いわば、<音楽そのもの>はつねに私たち自身の内部にしか存在しない。。。(中略)。。。私たちの内部にある音楽とは、いわばネガティブな音楽世界であり、作曲する、演奏するという行為は、それをポジティブな世界におきかえる作業にほかならない。音楽を聞こうとする態度もまた、新たなネガティブの音楽世界の歓喜を期待することであり、作り手→弾き手→聞き手→作り手という循環のなかにこそ音楽の営みがあるということは、遠い昔もいまも変りがない。積極的に聞くという行為、そして聞かないという行為は、つねに創造の世界へつながっている。この創造的な営みこそ、あらゆる意味で音楽の基礎である。(198ページ)」

こんな主張が述べられています。音楽の極めて本質的なことを、極めて正面から解説しているという点で、ほんとに勉強になる本だし、何度読んでもいろいろな発見がありますです。やっぱり、ワタクシ的には、音楽の基礎がこの本にあるのです。(98/8/13)


●ロマン・ロラン著 「ベートーヴェンの生涯」

 ※岩波文庫

 実に前時代的なベートーヴェン像です。「偉大な芸術的才能は偉大な精神に宿る」といった人間像。確かに不屈の精神力を持った、ひとりの男の生きざまが見えてくる。けれども、ピリオドアプローチといった「批判的態度」が普及している今日では、こうした文学的なベートーヴェン像は、もはや古めかしいものとなってしまいました(本書が書かれたのは1903年)。ただ、やはり病と闘いながら創造の泉を枯れることなく豊かにしていった人生は、感動的だし、それにこういうベートーヴェン像があってこそ、フルトヴェングラーのような演奏が存在し得たのではないか、とも思うのです。(98/8/2 文責みめい)


●Alan Blackwood "Sir Thomas Beecham : The life and the music"

 ※Barrie&Jenkins, London

 ビーチャムと言う指揮者は、製薬会社の富豪のボンボンで、とにかく自前の財産を使ってオケを作って演奏会を開いていた、というのだからうらやましい限り。スミス・クライン・ビーチャムという製薬会社が今でもありますよね。この人、学校で音楽を勉強したわけではないから、レパートリーも偏っていて、しかも「偏っていて何が悪いんじゃ!」と開き直れるところが、またうらやましい。ドイツ音楽には特に嫌悪感があったらしく、バッハ、ベートーヴェンなどにはほとんど関心がなかったようです。ブルックナーについて、「一つの楽章で、6回妊娠するが少なくとも4回は流産に終わっている」と言ってのけた。僕にとってのビーチャムは、ロスアンヘレスとビョルリンクとで録音した「ボエーム」のレコードです。これは本当に切ない、気品に溢れた演奏です。それから、なんといってもディーリアス。(98/8/2 文責みめい)


●ハーター・ノートン著 「クァルテットの教科書」

 ※春秋社、1997年、190ページ

 ※分野:演奏法、音楽論

 この本は、ヴァイオリン・ヴィオラ奏者のノートン夫人が、1962年に書き、クナイゼル弦楽四重奏団に捧げられたという名書らしいんですけど、ようやく最近になって日本語訳がでたものです。まさに教科書ともいうべき、大変細かいところまで譜面や実例を豊富に用いて解説しています。まず感心するのが、最初の3章。(1)様式と弦楽四重奏、(2)アンサンブル、(3)リハーサル、などなど、さまざまな具体例がありますね。各パートの役割や拍子の数え方などを説明したり、準備として座る位置、照明、舞台マナーなどにも触れています(喜)。譜面を使った具体例となると、どうしてもアップダウンボウイングなどの考え方などに偏り勝ちですけど、この本はフレージングから和声、強弱など、さまざまな項目に触れています。マンドリン奏者でこの本の内容を理解し自分のものにするには、ヴァイオリン族の知識が必要となるなど、かなりの勉強が必要だと思われますけど(苦笑)、それでもやはり基本的なアンサンブル法や演奏する上で考えなくてはいけないことを網羅的に解説してくれているという点で、常に手元にあってもいいかもしれません。難しい本ですし、出てくる曲目を詳しく知らなくてはその効果も半減するでしょうけど、みなさん、たまには真面目にお勉強(笑)、頑張ってトライしてみてはいかがでしょう?(喜)(98/7/26)


●千蔵八郎著 「名指揮者があなたに伝えたいこと 100のリーダーシップ」

 ※春秋社、1998年、220ページ

 ※分野:エッセイ、指揮者の名言集

 この本は、「大ピアニストがあなたに伝えたいこと」「大ヴァイオリニストが。。。」「名歌手が。。。」というシリーズの第4弾にあたるのかな? 古今の名指揮者100人をとりあげて、インタビューや自伝などで残された言葉を解説したものです。100人の指揮者で、一人見開き2ページ分。ルールは単純明解で、最初に数行分本人のコメントがあって、あとは著者による解説文。で、指揮者は年代順に並べてありますので、これまたどこから読んでもOK(大喜)。ほんとに電車などの待ち時間に最適で、時と場所を選ばない本ですね。さて、この本の特徴は、指揮者によるオーケストラ指導論でもあるし、タイトル文字どおりリーダーシップ論でもあり、またまた純粋な音楽論でもあるんです。指揮者という仕事は、それがプロでもアマチュアでも、オーケストラのトレーナー的な側面がありますよね。コンサート会場当日その場で棒を振っているだけではないんです。その日、その瞬間のために、どれだけ多くの会話が指揮者とオケとの間に交わされているか。。。そんな両者の激しい個性のぶつかり合いを垣間見れる楽しい本です。オケという組織を、一つの目的のために思い通りに動かす、まさにリーダーシップ論ですよね。そんな多くの指揮者達の声から、音楽が何であるかを深く考えさせてくれる良書だと思いました。演奏者であれば、何度でも繰り返し読み返すべきだし、いつでも新鮮な発見があるんぢゃないかな? (98/7/14)


●ONTOMO MOOK 「ピアノ曲読本」

 ※音楽之友社、1996年、263ページ

 ※分野:作品解説、CD解説

 サブタイトルには、作曲家70人、400作品徹底網羅、楽曲解説&ディスクガイドってあります(大喜)。昔はそれほどピアノ曲ってのを聴かなかったんですけど、何がきっかけだったのかな? クラシック曲をマンドリン合奏にアレンジするようになってからかな? マンドリンの音域や音使い(オルガンや管楽器のような持続音が物理的に出せないという特性)って、ピアノの発想と良く似ていると思うんですよ。で、それ以来、デュオ曲@連弾や2台ピアノ、なんかを意識的に集めるようになりました。そんな時に重宝するのが、この手の本。。。というかカタログですな。この本の特徴は、(1)作曲家ごとの作品紹介、(2)演奏者@ピアニストの紹介、(3)CD評、っていう三者が、とてもバランス良く配置されていることだと思います。いろいろな解説本って、いずれかに偏ってしまうパターンが多いでしょ? ワタクシみたいに、知らない曲で面白そうなものはないかなって探す人種や、この曲のいい演奏って誰のものだろ?なんて探している人種にとっては、このバランスはとってもありがたいものです。それと、コラムなんかも面白い視点で書かれていて、それぞれが超個性的な文章を書いています。この手のデータベース本は、やっぱりどこから読んでもいいし、別に全て読破しなくちゃいけないわけぢゃないから、興味のあるとこだけつまみ食いしてみるのが大吉。こんな本で、素晴らしいピアノ音楽の世界に踏み込むことができるならば、安いものだと思いません?(喜)(98/7/9)


●ルードルフ・レティ著 「名曲の旋律学〜クラシック音楽の主題と組立て」

 ※音楽之友社、1995年、342ページ

 ※分野:音楽理論

 いきなり難しい本ですいません。(^^; これはずいぶんと古い本で、1950年に書かれたようです。で、日本語訳が出たのが95年なんで、たぶん業界では待ちに待った日本語訳なんでしょうね。ぢつは詳しい内容をあまり覚えていないんですけど(笑)、シューマンの「子供の情景」を取り上げて、それぞれの楽章は有機的に結びついている、という主題構造を解説した部分が印象的でした。ベートーヴェンの「運命」とかが、運命の主題ってので統一されているってのは有名な話ですけど、「子供の情景」のような小品集でも同じような解釈ができるってことは、ワタクシとしてもちょっと油断モード(笑)。豊富な楽譜例が載っていますので、真面目に研究してみるには、十分価値のある本ぢゃないかな。。。(98/7/6)


●管楽器の名曲・名盤編纂委員会著 「200CD 管楽器の名曲・名盤」

 ※立風書房、1997年、242ページ

 ※分野:CD解説

 これはいいですねえ(大喜)。マニアックな本なんですけど、それぞれ協奏曲、ソロ・アンサンブル、オーケストラの中の管楽器、吹奏楽、などの章に分かれてさまざまな名曲、名演奏を紹介しています。基本的には1ページで1枚のCDを紹介しているんで、どこから読んでもOK。電車の待ち時間など、いつでもどこでも簡単に読める本ですね。作曲家という切り口だけでなく、演奏家という切り口でも紹介されていることがうれしいです。ワタクシ、もともと弦楽器の人間なので、管楽器に感心が薄かったんですけど、こういう本で管楽器の魅力をいっぱい伝えてくれると、はやりいろいろと聴いてみようかという気になってきます。そして、実際、何枚かCDを買ってしまうところが、なんだかなあ(笑)。で、指揮者などをやられる方は、管楽器の演奏法などいくつか解説コラムが載っていますので、これまた勉強になりますよ。(98/7/6)


●クラシック音楽向上委員会著 「クラシックB級グルメ読本」

 ※洋泉社、1997年、230ページ

 ※分野:CD紹介

 これは素人さんが手を出してはいけない本です(笑)。マニアックもマニアック、まさにB級グルメのタイトルそのものの本ですな。ワタクシなどは、こうした本はなにはともあれ買ってしまうんですけど(笑)、それでも知らない世界ばかりでちょっと当惑(笑)。で、どういう点でB級なのかといいますと、冒頭の17条、悪趣味は素晴らしい。。。がすべてを物語っています(爆)。少しだけご紹介すると。。。

 1.推薦盤などまっぴらごめんだ!
 2.平穏無事な演奏なんて捨ててしまえ!
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 5.ばかばかしいほど明るい音楽は貴重だ!
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 8.アリが這うように遅いテンポは大歓迎だ!
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11.本場ものは退屈で死んでしまう!
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17.知らないことは恥ぢゃない!

   ま、しばしこんな調子なんですわ(大喜)。この本の魅力を知るには、出てくるCDを隅から隅まで聴きまくって、ちゃんと演奏者の特徴をつかんでいないと、もしかして半分も理解できないかもしれませんが、ツボにはまってしまうと、涙なくしては読めない代物。うーん、おそるべし、クラシック音楽の世界よ!(98/7/6)

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